菌と生きる
コロナウイルスが流行していたときは、どこでもアルコール消毒液が設置されました。今でもお店の入口に設置しているところを見かけます。きれい好きな日本人ならではのことかと思います。ウイルスは菌ではありませんが、ウイルスや菌と聞くと、早く殺菌しなければならないと、本能的に思う人も増えたことでしょう。ウイルスはいなくなっても、生物は死滅しないでしょうが、生物が死滅したら、ウイルスは生きていけません。一方、この世から菌が消えたら、間違いなく人類は滅亡します。なぜならば、人間の体内は菌でいっぱいだからです。え?気持ち悪いと思った、あなたの体の中にも、幸か不幸かたくさんいます。最近は、砂場で遊ぶ子供の姿をほとんど見ません。おかあさんが、汚いから遊ばせないとか。おもちゃをなめる赤ちゃんを心配して、おもちゃを除菌ティッシュで丁寧に除菌します。子供のことを思ってのおかあさんの行動です。帰宅したら手を洗い、うがいをしなさいと言われます。着ていた服には除菌スプレーを拭きかけ、食卓で落とした箸はきれいに洗うか、取り替えます。
人間の腸内には、様々な腸内細菌が住んでいます。腸内フローラといわれるように、腸内細菌のお花畑です。善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌などが住んでいます。乳酸菌やビフィズス菌などが善玉菌で、大腸菌やブドウ球菌などが悪玉菌だと知られています。あと、いつの世にもいますが、強い方に味方するのが、日和見菌です。これらの菌は腸の中で何をしているのか?その詳細はいまだ解明されていないようですが、人間の生活に大きな影響を与えています。典型的な生理現象は、下痢や便秘です。腸内細菌のバランスがくずれるとそうなります。日和見菌が悪玉菌の見方になるのでしょう。でもどうしてそうなるか。それは考えるまでもなく、人間はインプットとアウトプットでできていますから、アウトプットは○んちや汗などで、インプットは食事です。腸内細菌のエネルギー源は、主にセルロースとブドウ糖です。ブドウ糖はみなさんたくさん摂取しているでしょうが、セルロース、いわゆる食物繊維はいかがでしょう。食物繊維は、お米にも含まれますが、多くは根菜類など野菜に含まれます。野菜不足になると、腸内細菌が怒って、日和見菌が悪玉菌の見方をして、下痢になったり、便秘になったりして。腸内細菌も人間も、お腹が空くとイライラしてくるのか、どうか。
ストレスでよく下痢になることがあります。若い頃は私も緊張して、よく学会の発表直前にトイレに駆け込んだことがありました。そうすると、脳が下痢を引き起こすと思いますが、実はそうではないことを最近知りました。脳内物質は、ドーパミンやメラトニンなどが知られています。これらを前駆体とする、アドレナリンやセロトニンもあります。これら脳内物質は人間の行動を支配していると言ってもいいでしょう。でも、どうしてそんな物質があるのか。ゲームをやっていると、ドーパミンがバンバン放出されます。朝日を浴びるとメラトニンが松果体から出てきます。興奮する原因をつくるのはアドレナリンで、眠くなるのは、セロトニンが分泌されるからです。特に、メラトニンとセロトニンの分泌がおかしくなると、不眠や朝起きられない状態に陥ります。このような脳内物質。実は、もともと腸内細菌が放出していた物質であることがわかってきました。そのメカニズムはよくわかっていない、というよりは良く調べていませんが、腸内細菌間の情報伝達のために使われていたようです。
ミミズは進化をやめた生物で、ほとんどが腸です。動物は腸から進化したといわれています。進化の過程で、心臓が出来て、脳が出来た。もともと、腸内で腸内細菌が放出していた脳内物質の前駆体が、進化の過程で腸以外でも使われるようになり、人間は動物の中では一番脳内でそれら物質を使っている動物かもしれません。いまでも、脳内物質の前駆体は、腸内に住む腸内細菌が造っています。したがって、脳が腸を支配して下痢を引き起こすのではなく、腸内細菌のバランスが崩れて、それが脳に影響を与えた結果、ストレスを受けやすくなり、下痢になったり、イライラしたり、うつになったりする。とすれば、どうすることで、これらを改善できるかは自ずとわかるでしょう。食生活が豊かになり、スーパーやコンビニで食べたい物がすぐ手に入る時代。安易に選んでいる食べ物を、もう少し気を付けて選別した方がいいことを示唆しています。腸内細菌が喜ぶような物を。