俯瞰力について日本人再考食文化を俯瞰

食文化を俯瞰

 これまで国際学会に出席するため十数カ国に出張したことがあります。現地のホテルに滞在して、現地の食事を食べましたが、日本のような食文化を感じたところはあいにくありません。もちろん高いホテルで出てくる朝食は、種類も豊富でおいしい物がたくさんあることはたしかです。でも値段が高い故です。10年以上前でも朝食が2,3千円くらい、今だったら5千円?1万円? そんな中で、イギリスで何回か学会があり、B&B(Bed and Breakfirst)に何度が宿泊したことがありますが、出てくる朝食がある意味で印象的です。どこもほとんど同じで、いわゆる、イングリッシュブレックファースト? ソーセージ、たまご(スクランブルだったか目玉焼きだったかボイルだったか記憶は定かではありません)、「焼きトマト」のスライス、黒パン(ライ麦パン?)のスライス、そしてコーヒーとの組み合わせなど。おいしいのですが、毎日全く同じで、テーブル上の配置まで完全にいっしょでした。

 2003年に40日ほどミュンヘンに滞在したときに泊まった長期滞在型のホテルでは、ビュフェ形式の朝食がありましたが、置いてあるものはいつも同じでした。丸いパンがたくさんあったので、最初はそれにジャムなどを付けてかじっていました。でも周りを見ると、みんなナイフで丸いパンを半分に切って、そこにハムやチーズを挟んで食べていることに気がつきました。たしかにハムやチーズの種類はたくさんありました。でも野菜がありません。代わりにジュースや、リンゴやバナナが置いてありました。最初はいろいろ食べてよかったのですが、1週間くらいで飽きました。幸いコーヒーはおいしかったです。昼はミュンヘン工科大学の食堂でしたが、ハッシュドポテト、ペイストポテト、そのままポテトで、ジャガイモばかり。それにサワークラフトが添えられます。キッチンが付いたホテルでしたので、夜は近所のスーパーで、もっぱら冷凍の魚を買って、醤油が売っていたので、フライパンを使って醤油で調理していました。ワインはボトルが4ユーロくらいで格安だったので、毎日買って飲んでいました。

 1992年にスタンフォード大学に10ヶ月滞在したときは、アメリカンフードを楽しんだのは最初の数日くらいで、その後は日本食を売っているお店でお米を買って、毎食ほぼ日本食でした。アメリカンフードの象徴が、ハンバーガーだとすれば、たしかにハンバーガーはたくさんあり、量はすごいのですが、はさまっている物はだいたい一緒です。また、レストランでステーキを頼むと、日本では高くて買えないくらいに分厚いステーキーが出てきて、それにフライドポテトなどが添えられています。アメリカはとにかく質より量で、肉もしかりドリンクもしかりです。マクドナルドのコーラは、日本のLサイズがアメリカではSサイズです。アメリカのLサイズはバケツくらいの大きさで、子供が首からぶら下げてストローで飲んでいます。ランチなどでも、大皿に大量のベジタブルを乗せて、若い女性がパクパク食べています。周りがみんなそうだから、自然とそうなってしまうのでしょう。

 それぞれの気候や風土の中で育まれた各国の食ですから、生きるための必需品と考えれば、それに文化まで導入する必要はないでしょう。イタリア料理や中華料理は私も好きですから時々食べますし、それなりに食文化はあるのでしょう。たとえばフランス料理は高級料理の一つになっていますが、実はその歴史はそれほど古くはありません。16世紀にフランス王だったアンリ2世が、イタリアメディチ家のカトリーヌと結婚したときに、引き連れてきたシェフが始まりでした。その後、ホークとナイフを使う格式付けた料理が定着したようです。日本の食が豊なのはみなさんもちろんご存じですが、その起源は縄文時代に遡ります。非農耕型定住生活を送るようになった縄文人は、さまざまな食材を手に入れて食べていました。山のもの、海のもの、食べれそうなものはみんな食べていたのでしょう。

 それは、日本という島国の気候ゆえ、季節があり、季節ごとに収穫できるものも違うため、1年を通して計画的に収穫しなければならなかったのが縄文時代です。その後、弥生時代に稲作が普及したとされており、日本の食に米が加わります(実は縄文時代からすでにあったという説もあります)。様々な食べ物を食する習慣が1万年以上続いて、現在の日本の食文化に繋がっています。江戸時代まで、そのような日本の伝統的な食文化が続いていました。でも明治になって、西洋の真似をして牛肉を食べるようになり。さらには戦後には、GHQの政策でパン・牛乳が急速に普及します。でも、器用な日本人は、そのような食の中にも、伝統的な日本食のレシピを取り入れた独自の食文化を創成します。そこが、他国と決定的に違うところです。日本の食文化は常に進化しています。