自分を俯瞰して見る
自分で自分を見ようと思ったら、鏡を使って見ますが、心の中までは見えません。相手は鏡がなくても見えますが、やはり心の中では何を考えているかはわかりません。でも、自分がいま何を考えているのかは、鏡を使わなくても当然自分でわかります。少なくとも、外見、内面いずれも自分自身のことはわかっているつもりになります。それならば、自分を見失うことなどなさそうですが、なぜか、体が動かなくなって引きこもったり、うつになったり、アル中やゲーム中毒になったりします。自分でも自分がよくわからない状態になってしまうわけです。自分の体は自分でコントロールできるのかといえば、自分の体をコントロールしているのは、自分の脳であり、その脳をコントロールしているのは実は腸だったりします。脳内物質のドーパミン、セロトニンなどの前駆体は腸で造られます、もっと突き詰めれば、腸に住み着いている腸内細菌、いわゆる腸内フローラが造っていることはすでにわかっています。そうすると、自分は実は腸内細菌にコントロールされていることになります。学会発表などで、緊張し始めると、緊張を押さえようといろいろやるが、むしろ緊張が助長されて、挙げ句の果てに、過敏性腸症候群、いわゆる下痢を起こします。私も若い頃は何度も経験しました。糖質過多の人が、食後急激に血糖値が上昇した後、急激に減少した際に、血糖不足でイライラしてしまい、トラブルを起こしてしまうこともよく知られています。緊張もイライラも、頭の中でのイベントであると思われがちですが、実は腸内細菌が一枚からんでいます。
これらの一番の直接的な原因は、腸内細菌のバランスであり、結局のところは、日々の食生活に行き着きます。腸内細菌は食物繊維をエサにしてそれを分解して、短鎖脂肪酸やビタミンB群などを造り、それらから脳内物質が造られますから、乱れた食生活が、うつや切れやすい症状などにも繋がっていることがわかります。まずは、食生活を改めて、自分の体と心の健康を保つことが一番大切です。それでも、人間、「喜怒哀楽」を日々経験します。「喜哀楽」は心の形成にもいずれ役立ちそうですが、「怒」は現代人には不要な感情かもしれません。もともとは動物が生存するために長い年月で身についた、闘争本能であることが知られています。敵と遭遇した際に、瞬時に血液を脳と筋肉に集中させるための本能であるようですが、いまの世の中、武器を使った「喧嘩」はともかく、「怒」で口げんかすると、相手は当然気分が悪いし、自分も冷静を失ってしまい、思ってもいないことを口にしたり、物事が解決する方向には決して向かいません。挙げ句の果てには、血圧が急上昇して、頭の血管が切れてしまい、そのまま憤死してしまうことも十分あり得ます。私も血圧が高くて、薬を飲んでいるので、日々それを一番心配しています。どうしたら、「かっ」とならないようにできるか、仮に「かっ」となってもすぐ冷静に戻れるかをいろいろ調べました。
結論は、まずは先にも書いた食生活です。特に、糖質過多、特にブドウ糖(炭水化物)の取り過ぎには注意しています。次に実践していることは、初刊の本、「自分を取り戻すための処世術」にも書きましたが、自分自身を自分の外から見る訓練です。自分を外からなど見れないでしょう、と思われるかもしれませんが、いま思考している自分に対して、「自分はいま何について考えているようだ」と思うもう一人の自分を造る訓練です。「心の葛藤」を経験したことはありませんか?まさに二人の自分がどっちにしようか言い争っているような状態です。あの高級車が欲しい、あの高級バックが欲しい、と思う自分に対して、やはり散財になるからやめようと止める自分。みなさんもすでに経験していることではありませんか?そういう、いわゆる抑止力になるような自分を育てて、相手から言われたことに対して、ついつい、かっとなってしまった自分に対して、「いま、あなたはかっとなっていますね」と冷静に見れるもう一人の自分です。自分の体のことなどまったく気にしないで、日々仕事の激務に追われ、ついつい食生活も乱れてしまっている自分に対して、「このままだと、病気になっちゃうぞ」と言ってくれる自分です。もっと進化すれば、集団の中にいる自分を集団も含めて,外から見るもう一人の自分です。集団に課された数値目標を必死でクリアしようともがいている自分に対して、「その数値目標をクリアしたとして、どんな良いことがあるのかな」と言ってくれる自分です。結局、クリアして、周りからチヤホヤされるだけとか、それをクリアして「承認欲」を満足できるだけだったりとか、することも多いでしょう。
人間は突き詰めると、「ドーパミン」と「承認欲」に支配されていると私は思っています。他人に認められたい本能が承認欲です。お釈迦様は、「人間の欲望はヒマラヤの山を黄金に置き換えても、満足することはない」と言われたとされています。承認欲もまさに満たされることはないでしょう。ブランド品をまとって、周りからうらやましく思われたい。高級車に乗って金持ちだと思われたい。テストで100点取って頭いいと思われたい。会社で偉くなって社員を見下したい。これらみんな承認欲から来ています。承認欲を満足するのが目的になるとモチベーションも高まり、モチベーションが高まると、ドーパミンがバンバン放出されます。食欲も、ステーキ、ラーメン、スイーツ、お酒など好きな物はついつい食べすぎ、飲み過ぎてしまいますが、これもドーパミンと深く関係しています。いろんな欲に取り付かれると、自分を見失って暴走してしまう恐れがあります。それを止める、もう一人の冷静な自分を自分の中に育成すれば、ドーパミンが放出する可能性の事象に入る前に、そのようになる自分を予め予想して、暴走しないように節度のある行動ができるようになるかもしれません。