健康について脳より腸

脳より腸

 最近は、大学生でも、引きこもったり、うつになったりする人が増えています。特に、コロナウイルスの流行で、密を避けるため、オンライン授業などで自宅学習が続くと、そのような学生がさらに増えるのではないかとたいへん心配しています。以前から、どうしてこのような学生が増えてきたのかが私なりに知りたくて、ネットでいろいろ調べたり、書物を読んだりしていて、これが原因だというものに行き着きました。

 引きこもる学生は、おなかや頭が痛くなったり、ふとんから起きられなかったり、体がいうことを聞かなくなる傾向があるようです。心配して、メイルや電話しても、返事が返ってくることはまずありません。人それぞれ直接的な原因は違うかもしれませんが、私がたどり着いた間接的な原因は、食べ物です。人間の喜怒哀楽の感情を司っているのは、脳内物質である、ドーパミン、アドレナリン、β-エンドルフィン、セロトニンなどです。これらが分泌されることで、楽しくなったり、怒ったり、幸せを感じたり、眠くなったりします。西洋医学では、これらの物質がアンバランスになると、うつになったり、キレやすくなったりするとされており、症状によってはこれらの分泌を促す薬などを処方します。ただ、話がここで終わってしまうのは、短絡的かもしれません。本当に脳が問題なのでしょうか?

 これら脳内物質の元になる物質はどこで造られるかご存じですか?脳の中ではないのです。腸で造られます。腸自体でもないのです。腸に住み着いている腸内細菌、いわゆる腸内フローラが造っています。詳しくは2つの本を紹介しますので、興味のある方は参考にしてください。腸内細菌には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌などがあり、腸内に何百種類もの細菌が住み着いています。善玉菌の代表には、ビフィズス菌や乳酸菌などがあります。日頃ヨーグルトを食べている方は、一安心と思うかもしれませんが、あいにく口から入れたこれら菌のほとんどは、腸に達する前に死滅してしまうそうです(ヨーグルトが体に良いのは確かです)。これら善玉菌を増やすためには、腸内で増やすしかありません。善玉菌は、食物繊維(セルロース)を腸内で発酵させて、体のエネルギーになる短鎖脂肪酸を造ったり、さらにはビタミンB群、ビタミンK,そして脳内物質の前駆体を合成しています。したがって、食物繊維を多く含んだ食物、たとえば、野菜、豆類、海藻、きのこ、芋類、果物などをバランスよく食べることが大切です。どうでしょうか?日頃の食生活を振り返ってみて、脳内物質を安定供給する体制は整っていますか?

 ごはん(米)をたくさん食べているので大丈夫と思った方もおられるでしょう。ごはんの主成分である炭水化物は、食物繊維と糖質の総称です。たしかに食物繊維も取っていることにはなるのですが、ここで気を付けなければならないのは、糖質です。米の糖質は体内でブドウ糖になります。ブドウ糖は脳を動かすエネルギー源ですので、必要不可欠な物質なのですが、取りすぎてしまうと、脳が暴走してしまうそうです。疲れたときにチョコレートなどの甘いものが欲しくなったり、ストレスがたまるとやけ食いをしてしまったりする経験はありませんか?これは、脳内物質のドーパミンがそうさせているようです。ドーパミンの分泌に糖質が絡んでおり、覚醒物質でもあるドーパミンが欲しくて、甘いものを欲しがってしまう。いわゆる中毒状態ですね。キレやすい人は、糖質過多の人が多く、糖質を供給しているうちはいいのですが、糖質が欠如した低血糖状態の時にそうなるという研究もあります。

 炭酸飲料やカレー、ラーメンが好きな学生はたくさんいます。ちなみに、500mlのコーラには角砂糖15個分、カレーライス一杯にはなんと35個分のブドウ糖が含まれているそうです。ドーパミンの分泌を抑えるのは、β-エンドルフィンです。これらのバランスが保たれていないと、何かしら支障をきたす恐れがあるわけですね。我々人間は、脳で物事を考え、脳が体をコントロールしていると思いがちですが、実はその脳を腸が支配していたわけです。お腹が下痢ぎみ、便秘ぎみなのは、腸内細菌が乱れている証拠です。うつの人が、食生活を改善してお腹の調子を整えたら、うつ状態が治ったという事例も多くあるようです。食事では、食物繊維をちゃんと取るように心がけて、かつ糖質の取りすぎには注意しましょう。もちろん、タンパク質も必要です。

 心の健康には、栄養バランスの取れた食事がきわめて大切であるということですね。

[1] 田中保郎、腸が変われば人生が変わる 驚異の腸内フローラ、ぶんか社. [2] 藤田紘一郎、脳はバカ、腸はかしこい、株式会社三五館

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