日本人にしかできない

　落ちていたお財布を交番に届ける。持ち込んだゴミは自分で持ち帰る。電車の乗車を並んで待つ。無人の売店や駅でちゃんと支払う。公共の場では騒がない。などなど。我々がごく普通に行っている行為が、外国人から見ると不思議に思えるようです。東京駅の新幹線ホームにキオスクがありますが、店員の見えないところに商品が陳列されています。ある時、外国人観光客がその中から物を取って、そのまま立ち去っているのを見たことがあります。勇気を出して注意すべきでしたが、あいにく、その勇気はありませんでした。田舎には野菜などの無人販売所がありますが、「お金はこの箱に」となっていれば、普通の日本人はそこにお金を入れますが、外国人が見たら、みんな根こそぎ持って行くのでしょうか？小学生が電車やバスに１人で乗っているのを見ると、外国人はたいそう驚くようです。そうかもしれません。海外ではそのまま連れ去られてしまうかもしれません。アメリカでは、たとえば車に子供だけ残して買い物していると、犯罪です。

　アメリカで外を１人で出歩いていたら、最悪の場合、殺されてしまいます。冗談かと思うかもしれませんが、私もそうなりそうだった体験があります。海外出張で到着した空港からトリム（市電のようなもの）でホテル近くの駅まで向かい、降りてスーツケースを転がしながら、ホテルまで向かっていたところ、１人の黒人が近づいてきました。ホテルは目の前にあり、断ることもできましたが、「何している」と聞かれたので、身の危険を感じて、敢えて「ホテルを探している」と答えました。すると、ついてこい、とばかりに先に進み、少し歩いたところで、あれだと指さしました。直後に手のひらを上にして、私に向けました。当然ながら金を出せ、ということです。仕方なく、１ドル紙幣を渡したら、「チッ」といって、また手を出します。こちらも慌てて持っていた５ドル紙幣を追加で渡したら、満足そうに去って行きました。５ドル紙幣をケチって、スーツケースまるごと、身ぐるみ取られるのはたまったものではありませんので。

　夜遅くに、女性が１人で外を歩ける国は、日本くらいかもしれません。我々日本人が常日頃、意識せずに行っていることで、海外では異常に見えることの典型的な例です。それだけ、いまでも治安がしっかりしている法治国家であるということです。たとえ、東日本大震災のような未曾有の災害が起きたときでも、日本人は暴動などは起こしませんでした。海外で災害が起こったときには、スーパーなどで略奪がすぐ発生します。あわよくば、こっそりと、という不届き者はいるかと思いますが、ほとんどの日本人は略奪をするなど、まったくけしからんと思うでしょう。海外では政府の政策に抗議して、デモが起き、それが暴動になるのもよく見ます。でも、日本では、いま「愚政」にあっても、暴動など起きない、外国から見れば、不思議な国です。でも私からみれば、良かれ悪しかれ、必然だと思えます。たとえば、いまだに多くの方がマスクをしています。市販のマスクにウイルス感染の予防効果は期待できません。それでも、周りに合わせて？気にして？未だに多くの人がマスクをしています。

　弥生時代に漢字や稲が伝来して普及したとされ、飛鳥時代に仏教が伝播して神仏が習合し、ポルトガルから鉄砲が伝来して改良し、キリスト教が伝来して八百万の神の１人として受け入れ、明治時代に西洋の技術や食べ物が伝来して吸収し、そして戦後に米国の思想を強制されて吸収し、航空機や自動車の技術を吸収し、IT技術を吸収し、そしていま、おかしな政策を強要されても、それを吸収しようとしています。なんか、ブラックホールのような国かもしれません。オリジナリティのない国かもしれません。でも、ただ単に吸収するだけでなく、それらを改良・進化させてしまうのが日本です。まさにそこが、日本人にしかできないところであると、私は思います。日本人は、システムインテグレーションが得意な民族です。システムインテグレーションとは、いろんな既存の物を組み合わせて、新しい物を創成することです。いろんなものを取り入れて、改良して、自分たちにあったものに進化させる。あらゆる物を常に改良しようとしています。日本人は生まれながらにして、勤勉で器用ゆえのことでしょう。