俯瞰力について日本で世界を俯瞰日本人再考

日本で世界を俯瞰

 日本は世界地図上では、東にある小さな島国です。でも、よく見る地図はメルカトル図法で作成されており、赤道から離れるほどに大きく強調されて図示されています。16世紀にこの図法を考えたベルギーのメルカトルは自国を大きく見せたかったのでしょうか?ちなみに、日本をベルギーの位置に北へ移動させると、縦横2倍くらいの大きさになります。そんな小さな島国の日本ですが、歴史の長さを考えれば、世界でこれほど長い歴史の国は世界中どこを探してもありません。青森津軽地方で発掘された大平山元遺跡は、1万5千年以上前のものと推定されています。同じく青森の三内丸山遺跡では6千年近く前の集団生活の跡が見つかっています。なお、古代文明の一つ、メソポタミヤ文明でも、約6千年前辺りに、チグリス・ユーフラテス川の河口にシュメール人が住み着いたとされています。また、約4千年前に漢族の祖先が黄河流域に住み着いて中国4千年の歴史が始まったとされています。実は約7千年前に長江付近には別の民族がすでに住み着いていたことがわかっています。炭素14年代測定法により、最近発掘された遺跡の年代が正確に推測できるようになり、日本もいま縄文遺跡発掘ブームで、縄文文明に興味を持っている人も増えてきました。私のそのひとりです。

 Y染色体ハプログループの分類で、約3万年前に発現した日本人固有のD1a2aタイプを持った民族が日本に住み着いていることがわかってきました。一方、長江付近を起源に持つO1bタイプの民族も移動してきたこともわかってきました。ちなみに漢族はO2タイプです。これら2種類のタイプはいまの日本にも広く分布していることから、長らく同じ民族が住み着いていることがわかります。一方、いわゆるユーラシア大陸では、ハプログループの地域性はあるものの、同じ民族が何千年も続いたエビデンスはわかりにくくなっています。それは同じ大陸内に共存しているため、民族間で争いが起きて、滅亡したり、同化したりして、ハプログループが拡散してしまったのが原因であると推測します。日本人は自国の歴史には大なり小なり興味を持って、歴史ドラマなども好んで見ているように思いますが、他国の人たちは、自国の歴史を語りたくても、語るだけの歴史がない人が多いでしょう。アメリカでさえも、1776年から数えれば、250年程度に過ぎません。中国が4千年続いているといわれていますが、13世紀から、漢族、蒙古族、満洲族、そして漢族と支配民族が入れ替わっています。

 なんで日本人が世界を俯瞰して見れるかといえば、長らく同じ民族が続いているだけではなく、幸いなことに他民族から「物理的に」侵略されることもなく、世界の出来事をなかば第三者として客観的に見ることができるからです。民族戦争、宗教戦争を長らく続けてきた国では、正しいのは自国であると思っているわけですから、戦争相手の他国を客観的に見ることができないでしょう。幸か不幸か日本では神道や仏教が主であり、これらは一神教ではありません。でももともと同じである唯一神を信仰しているはずの、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の間でも宗教対立が絶えません。同じキリスト教のなかでも、カトリックとプロテスタントでは相容れません。イスラム教のスンニ派とシーア派もしかりです。相容れることがあるとすれば、利害関係が一致したときだけでしょう。たとえば、お互いお金儲けができるとか。宗教間の対立、民族間の対立が存在するところでは、歴史を客観的に見ることができません。一神教を信仰する民族からすれば、いずれからも日本人のほとんどは異教徒にはなりますが、意外にも同じ一神教を信仰する民族間よりは、むしろ日本人の方がいずれの宗派の民族とも仲良くできています。これは、神道や仏教がいわば多神教であり、八百万の神の1人として、ヤハウェ、イエス、アッラーを受け入れることができるからだと私は思います。

 日本人は世界を客観的に見ることができる、数少ない民族です。たぶん、それに気がついている人はあまりいないでしょう。あいにく最近は、日本人がそのように目覚めることを阻止している人たちが日本の周りにはいるからです。でもこれは、大陸由来の性悪説から来るものでしょう。日本人は島国で暮らし、外敵からも物理的に侵略されたことはないことから、どうしても性善説に基づき物事を考えてしまいます。耳にする情報はそのまま信じてついつい鵜呑みにしてしまいます。実はそのような日本人の特質を利用して、日本を仮想的に支配しようとしている人たちがたくさんいることをよく理解すべきでしょう。むしろ、日本人はそのような性悪説に基づく人たちを理することができる唯一の民族、であると私は思っています。