価値観について変わった学生

変わった学生

 30年以上大学生相手に教員をしてきましたが、毎年約15名程度の院生・学生が研究室にいますから、いろんな学生がいて、いろんなことを学べます。年齢もいつもみんな20代前半ですので、私自身、精神的にはあまり年をとった気にはならない環境です(体はもう老人の域ですが)。

 変わった学生というと、悪い意味での変な学生と捉えられてしまうかもしれませんが、いい意味で「少し変わった」学生に興味があります。良くいえば、「個性的な」学生です。大学の研究者ということもあり、常日頃、人とは違ったことをしなければ研究になりませんから、私自身も世間一般からすれば、少し変わっているかもしれません。ただ、私以上に変わった教員は周りにたくさんいます。変わった教員が変わった学生を好むかどうかは教員によっても違います。どちらかというと、教員の個性を学生にも押し付けてしまう方が多いかもしれません。

 むかし、肩まで髪を伸ばしていたT君という男子大学院生がいました。ちょうど学会で発表する機会があり、「ぜひその髪で学会で発表してみては」といったところ、なんと発表日前に髪を短く切ってしまいました。どうも、逆の意味でとらえてしまったようです。でも私自身は、本当に長髪で発表してほしかったので、がっかりしてしまいました。ある国際会議で、外国人の若手研究者が長髪で発表しているのを見て、結構目立っていたので、同じことをすれば間違いなく注目されると思ったのですが...

 I君は院生なのに研究室に全然来ません。いわゆる引きこもり状態ではないかと心配して、何度も連絡をとろうとしましたが、なかなかつかまりません。やっと連絡がついて事情を聞いてみたところ、どうも海外旅行が好きで、それも月単位で、中国、東南アジア、インドなどを旅行していることがわかりました。インドでは、野牛がいるようなところで野宿をしていたと話していました。普通でしたらば、指導している教員は激怒するでしょう。そして、大学院も修了できません。結局、修士2年の後半にやっと研究室に来て、付け焼刃の知識で修士論文を仕上げて、大手電機メーカーに就職しました。たしかに大学院を無事修了できるか、また就職できるかは心配でしたが、彼は自分がやりたいことを謳歌していたようです。「好きで夢中になれることがある」という点で、私は彼がむしろうらやましく思ってしまったわけです。結局のところ、水を得た魚のごとく、いまでも海外事業などで頻繁に外国との往来をしているようです。