人生について人類と自然日本人再考

人類と自然

 昔、JAXAから、台風を制御するための方法についてシミュレーションで見つけてほしいという、とんでも?依頼を受けたことがあります。どうも、他の研究者に依頼をして断られ続け、最後に私のところに行き着いたようです。私も基本、突拍子もないことが好きですので、あまり深く考えずお引き受けしました。研究費は結構な額をいただきました。さて、どうしようということで、現在やっている研究の一つに非平衡凝縮がありましたので、まずはそれと台風との関連性を探求しました。台風は強力になり、中心気圧が下がってくると、いわゆる台風の目が出来ます。実はこれは、竜巻ができるメカニズムと同じです。高気温下で海水から蒸発した水蒸気を含む高湿度の空気は、上昇気流となります。さらに地球の回転に伴うコリオリ力により渦巻き始めると、中心部分の圧力が下がって、温度も低下します。すると、圧力と温度が、飽和蒸気圧曲線を跨いで低下するので、乾いた水蒸気は凝縮して液滴に相変化します。竜巻が白く見えるのも、台風の渦が白い雲になっているのも、この凝縮により発生した液滴によるものです。JAXAの研究グループは、本来は宇宙太陽光発電技術を研究開発しているグループです。宇宙空間の人工衛星で太陽光により発電した電力を地上に送る際に、マイクロ波やレーザーで送る必要があります。でも、これが完成するのは数十年先のことであり、それまでの繋ぎの研究として、レーザーによる台風制御を思い立ったようです。凝縮した液滴が回転による遠心力で外側に飛ばされた結果、中心には液滴のない状態、いわゆる台風の目が形成されます。

 横浜にあった地球シミュレータ(NEC製の当時世界最速スパコン)を無償利用するため、運用している研究グループとも合流して、利用課題申請をしたところ、運よく採択されました。台風の目に出来る気液界面(海面から高高度までできる壁)にレーザーを照射して加熱することで凝縮を遅らせようと目論んで、シミュレーションしてみましたが、どうも逆に台風の強度を強めてしまう結果しか得られませんでした。課題成果の報告の際に、とある気象系の審査委員の先生から、「そんな神をも恐れぬ行為はすぐ止めろ」と言われ、頭の固い研究者だなと思いましたが、結局研究は終了しました。すでに闇に葬られていますが、実は英語の研究レポートを2件発表しています。いまから思えば、たしかに神をも恐れぬ行為だったかもしれません。でも最近、異常気象が頻繁しているためか、気象を制御する必要があると大型の研究費なども公募されているようです。人口雨を降らせる研究などは昔からやっていましたし、北京オリンピックでは雪を降らせるために人口降雨用のミサイル?を何百発?を発射したとか。発想が少し時代の流れより先走りすぎていたかもしれませんが、いまでも、このレーザー照射により制御できるのではないか、と私自身は思っています。

 台風のような気象現象のみならず、火山の噴火、地震、津波、洪水、など、日本では昔から自然の脅威を定期的に経験しています。日本人はそれらに、神の存在を感じ、山をご神体にした神社を建立したり、地鎮祭などの祭り、神話や童話、などの形で後世に言い伝えられてきました。そこに、「八百万の神」への信仰が生まれ、神道に繋がっています。多神教に基づく信仰です。世界ではむしろ、唯一神としての一神教が主流のように思われますが、実は、古代文明といわれる地域では、もともとは日本と同じく、多神教が信仰されていました。人類発祥の地はアフリカで、その後世界中に広まったことは現在では定説になっています。なんでまた、砂漠の地から人類は始まったのか、と思うかもしれませんが、これは大きな間違いです。なぜならば、水のないところに生命は宿りません。大昔はアフリカも緑で覆われていたことは想像に難くありません。実際、古代文明の一つとされる、メソポタミア文明は、チグリス川とユーフラテス川がペルシャ湾に注ぐ沖積平野(今のイラクの南側)から始まっています。これらの川も頻繁に洪水を起こしていました。同時に湿地帯を形成していました。そんな地に最初に住み着いたのがシュメール人だとされています。洪水を起こすといえば、古事記の中にある八岐大蛇(ヤマタノオロチ)伝説も、実は出雲の地では、昔から河川が洪水で八岐に分かれるくらいに氾濫していたことを大蛇に例え、後世に伝えていると言われています。シュメール人から始まったバビロニアでも、ギルガメッシュ叙事詩というものが遺跡から発見されて、その中にはシュメール人の生活や、洪水の記録が記されているとのことです。さらに、この洪水伝説は、その後、「ノアの箱舟」伝説に繋がっているとも言われています。

 シュメール人はその後、他民族の侵略により滅亡しましたが、高い文明が形成されていた証拠として、「楔形文字」を発明したのが、シュメール人です。粘土板にハンコのようなもので楔型の文字を書きますが、遺跡でも多くの粘土板が発見されています。どこか、縄文文明に似ていると思いませんか?二つの文明に共通しているのは、自然に恵まれた地形です。植物・動物などの食糧が豊富であったことは容易に想像します。いろんな恵がある環境で、それぞれに神が宿る、まさに、「八百万の神」の発想は、シュメール文明にもあったと、私は確信しました。あいにく、シュメール人が滅亡した背景には、メソポタミアの地はユーラシア大陸の一部であり、大陸であるため、周りにはたくさんの異民族、アッカド、アッシリア、アラブ、エジプト、そして蛮族、などなど、常に戦争が絶えず、勝ったり負けたりを繰り返し、負ければ奴隷になり捕囚されたり、の歴史を繰り返していました。年月が過ぎるにつれて、人類の生活による、樹々の伐採、農地の開墾、そして気象変動などにより、大地はだんだん砂漠化されていったのかもしれません。その結果として、今の中東やエジプトなども砂漠地帯が多く広がっていったと想像します。砂漠地には、草木はほとんどなく、生命の営みをほとんど感じず、感じるのは時間の普遍性と、唯一神の存在だったのではないでしょうか?ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の唯一神が誕生した背景には、この必然性が深くかかわったいたことは間違いないでしょう。