オノマトペ日本人再考

オノマトペ

 パンダの名前には漢字二字がよく付けられており、新しく上野動物園でお披露目される双子のパンダも、暁暁(シャオシャオ)と、蕾蕾(レイレイ)に決まったそうですが、中国のご意向が強く働いているのでしょうね。まあ、私には関心のないことですが、ここでの話しはパンダの話しではありません。「オノマトペ」という言葉を聞いたことはありますか?どこの国の言葉って感じですが、フランス語のようです。日本語では、「擬音語」もしくは「擬声語」にあたります。自然の音や動きを象徴する言葉で、たとえば、雨がザーザー、風がピューピュー、といった我々は日常なにげに普通に使っている言葉です。フランス語が語源のようですので、フランスにも同じような表現方法があるのかもしれませんが、私は知りません。たしかに、ザーザーやピューピューには、音を感じます。英語などでも、犬の鳴き声、「ワンワン」に相当する「Bow-bow」など、単語を繰り返す表現もありますが、自然の音を表現する、擬声語はいまのところ見つけていません。

 日頃なにげに使っている擬音語ですが、意識して思い出せば、ものすごくたくさんあります。ガーガー、キャーキャー、ギャーギャー、ザーザー、ピーピー、ブーブー、など。それぞれ何の音かも想像できます。このように音を擬音語で表す文化はいつ頃始まったのでしょうね。オノマトペの研究者によれば、日本語には英語などに比べて、動詞や形容詞が少なく、その代わりにオノマトペが用いられているということです。たとえば、動物が「鳴く」動詞は、英語では、bark(犬)、mew(猫)、coo(はと)、などそれぞれの動物の種類ごとに違います。何となく鳴き声がそのまま動詞になっているようにも見えます。日本語だと、どんな動物も「鳴く」になりますね。その代わりに、ガーガー鳴く、ブーブー鳴くといった、オノマトペが使われる言語が発達したようです。

 なんで、突然オノマトペなのかというと、以前研究室に短期留学していたドイツ人の女子学生がいました。留学前に日本語を勉強して、留学した際にはすでに日常会話もできるくらいなっていました。その女子学生から、日本語には、擬音語が多いと言われ、そのとき初めて自覚したわけです。ドイツ語にはそんなにないと言われました。それを思い出して調べていたところ、実は英語などではみんな動詞になっていることを理解しました。よく赤ちゃんとお母さんが会話するときに、擬音語を使いますから、赤ちゃん言葉のような印象もあります。大人になって、アヒルがガーガー鳴いていたとか、豚がブーブー鳴いていたとかは、あまり使いたくはありませんね。でも、雨がザーザー降る、風がピューピュー吹く、川がゴーゴー流れる、といえば、ただ単に降ったり、吹いたり、流れたりしているだけでなく、なんとなく台風や嵐の時であることがわかります。

 でももっと興味深いのは、同じ雨、風、川の、降ったり、吹いたり、流れたりする表現でも、たとえば、雨がしとしとと降る、風がそよそよと吹く、川が悠々(ゆうゆう)と流れる、と言った場合、これらは音ではありません。にもかかわらず、どんな感じで流れたり、吹いたりしているのかが感覚的にわかります。それがわかるのは、生まれた時からその言葉と映像が結び付けられて教えられてきたからでしょうね。これらは擬態語と呼ばれています。他にも、イライラ、セカセカ、ガリガリ、ペチャペチャ、ノロノロ、ズキズキ、ワクワク、キラキラ、...、とあげればきりがないくらいたくさんあります。改めて、このように自覚すると、日本語は世界に類を見ないユニークな言語であることがわかります。音や状態をわかりやすく簡単に表現するのに、オノマトペはたいへん便利であり、また必要不可欠なものであることを再認識します。